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法例・判例

 オリンパス事件 東京高裁2001/5/22判決

*判時1753号23頁(原審 東京地判平11.4.16判時1690号145頁)

使用者は,職務発明についての「相当の対価」の額を,勤務規則等の定めによって一方的に制限することはできないとされた事例


【事実の概要】

X(一審原告)は,昭和44年から平成6年まで,写真機等の製造販売を行うY会社(一審被告)の従業員として勤務していた。在職中の昭和52年,Xはビデオディスク装置のピックアップ装置に関する職務発明(以下「本件発明」という。)をし,Yは,その発明考案取扱規定により,当該発明について特許を受ける権利を承継した。YはXに対し,同規定に基づいて,昭和53年に出願補償として3000円,平成元年に登録補償として8000円,平成4年に工業所有権収入取得時報償として20万の合計21万1000円を支払った。

Xは,本件発明は,CD装置の中核をなす必要不可欠の装置に係わるものであり,国内のすべてのCD装置に使用されているとして,本件発明の特許を受ける権利の承継に対する相当の対価の額は,平成2年度のCD装置の国内総生産を基礎として算出すると9億円(主位的主張),Yが本件発明を含むライセンス契約により平成2年から平成6年までの間に取得したライセンス料を基礎として算出すると10億円余りになる(予備的主張)とし,Yの発明考案取扱規定に基づく支払がされても,強行規定である特許法35条に基づき差額の支払を請求することができるとして,その内金2億円の支払を求める本件訴えを提起した。

これに対し,Yは,使用者たる会社は,職務発明についての「相当の対価」も勤務規則等に予め定めたものに従って処理することができ,Yの発明考案取扱規定に基づく支払は相当の対価の支払と認められるべきであること,Xは,同規定に基づく支払を異議なく受領したから,改めて差額を請求することが許されない等を主張した。

原審はXの請求を一部認容したうえで,XがYに対して請求できる相当の対価の額は250万円であるとした。これに対し,XY双方が控訴した。

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【判旨】

控訴棄却

「特許法は,その35条3項で「従業者等は,契約,勤務規則その他の定により,職務発明について使用者等に特許をうける権利若しくは特許権を承継させ,又は使用者等のため専用実施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と定めている。」

Yは,使用者等は,勤務規則等により職務発明に係る特許権等の使用者等に対する承継等だけでなく,特許権等の承継等の「相当の対価」の額も,従業者等の同意なしに,一方的に定めうると主張するが,「相当の対価」の額についてまでこれにより一方的に定めることとはできないものと解するのが相当である。

このことは,同条項の文言上明らかであって,「このように,従業者等に「権利」として支払を受けることの認められた「相当の対価」の具体的な額を,当該権利に関する義務者である使用者等が一方的に定め得るとすれば,それは,法律上,むしろ異様な状態というべきである。」

「同条の立法の趣旨は,・・・使用者等が,従業者等の同意なしに,「勤務規則その他の定」により,職務発明に係る特許権等を使用者等に承継等させることができるものとしたうえで,しかし,その場合には,従業者等は,「相当の対価」の支払を受ける「権利」を取得するものとして,従業者等の利益保護を図り,使用者等と従業者等との間の利害を合理的に調整しようとすることにあることが,明らかである。・・・また,同条の上記立法趣旨に照らせば,特許法35条3項,4項を強行規定と解すべきことも,当然というべきである。」

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「使用者等が,画一,公平な事務処理の観点から,・・・あらかじめ「勤務規則その他の定」により,職務発明に係る特許権等の対価につき・・・その算定基準や支払時期等を定めておくことが許されることはいうまでもない。

そして使用者等によって定められたところが特許法第35条3項,4項の趣旨に照らして合理的であり,具体的な事例に対するそのあてはめも適切になされた場合には,それにより従業者等は「相当の対価」の支払を受けることになるであろう。

しかしながら,上記のとおり,特許法35条3項,4項は,強行規定であるから,上記定めが,これらに反することができないことはあきらかである。したがって,上記定めにより算出された対価の額が,特許法35条3項,4項にいう相当の対価に足りないと認められる場合には,従業者等が対価請求権を有効に放棄するなど,特段の事情のない限り,従業者等は,上記定めに基づき使用者等の算出した額に拘束されることなく,同項による「相当な対価」を使用者等に請求することができるものと解すべきである。」

これに対し,Yは,このような解釈は,職務発明の譲渡に対しては,いったん社内規定により支払われても,別段の請求があれば,常に,更に何らかの「相当の対価」の額を当該従業者等に支払わなければならないということになり,現在の企業内の発明及びその実態とあまりにもかけ離れたもので,到底採り得ないものであり,このような事情の下では,日本企業の多くが発明の取扱いに窮し,特許管理の崩壊をもたらす旨主張する。

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しかし,右解釈を採用したからといって,別段の請求があれば,常に支払わなければならないことにはならず,社内規定が特許法35条3項,4項に照らして合理的であり,かつ,具体的事例に対するその当てはめも適切になされたときには,それにより従業員は「相当の対価」の支払を受けることになるから,Yの主張はあたらないとした。

また,Yの主張は,特許法35条4項に基づく相当の対価が,規定で定めた上限を超える場合であっても,使用者等がその額を任意に定め,規定を超える額の請求を制限できるというものであって,明らかに強行規定に反する主張であると指摘した。

そのうえで,本判決は,相当の対価の額について判断し,本件発明は諸隈発明の利用発明であって,他社とのライセンス交渉においても本件発明には重きがおかれていなかったこと,ライセンス契約を締結したソニーは,諸隈特許の存続期間後は実施料を支払っていないこと,本件特許の要旨変更前の当初出願の発明のままでは,各社のピックアップ装置がこれを実施していると評価できないこと等の事情を綜合的に判断して,本件発明によりYが受けるべき利益額を5000万円とした原審の認定には合理性があるとし,更に,Yの使用者としての貢献度も95%とした原審の評価を認定し,原審と同じ250万円を相当の対価と認定して,当事者双方の控訴を棄却した。

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