種類株式
もともと株式は、すべての株式についてその内容が同じであることが基本的な属性とされていました。同じ株式会社の株式の内容が個々に異なっていると、株式の譲渡がスムーズにできず、また何万人という株主が存在する株式会社では事務処理が煩雑になるからです。
しかし、ベンチャー企業では、汗を流しながら事業を進めていく創業者と、リスクの高い投資を行うベンチャーキャピタルという性格の異なる株主が同居することになるため、異なった内容の株式によって両者の利害の調整を行うニーズがあります。
そこで、種類株式が活用されることになります。
種類株式とは?
種類株式は、株式の内容について他の株式と異なる内容を定めるものです。
ただし、種類株式は、内容的な均一性を前提とする株式制度の例外なので、異なる内容の株式とすることができる項目は、会社法が規定する9個の項目に限られています(会社法108条)。
9個の項目以外のベンチャーキャピタルとベンチャー企業との合意事項、たとえば財務内容の定期開示については、種類株式として株式の内容とすることはできず、ベンチャーキャピタルは投資契約による契約上の拘束力で満足するしかありません。
種類株式の内容として定めることができる事項
種類株式の内容として定めることができる事項は以下のとおりです。
1 剰余金の配当
株式会社は、剰余金(利益)の配当について、内容の異なる株式を発行することができます。
実務的に、剰余金の配当について、他の株式に比べて優先的取扱いを受ける株式を「優先株」、劣後的取扱いを受ける株式を「劣後株」といい、標準となる株式を「普通株」と呼んでいます。
優先株は、投資契約における「優先的利益配当」条項を種類株式として株式の内容としたものです。
ベンチャー投資の場合には、株式上場までは無配が原則ですので、本条項が定められる場合には、条件が付されるのが一般です。
2 残余財産の分配
会社の清算の場合の残余財産の分配についても、優先的取扱いを受ける株式、または劣後的取扱いを受ける株式が認められます。
ベンチャー企業では、金融機関からの借入金(負債)の比率が低く、また完全に破綻にする前に清算に至るケースもあるため、投資したベンチャーキャピタルとしても、清算時の残余財産分配について優先権を得ておくことにはメリットがあるといえます。
3 株主総会において議決権を行使できる事項
株主は、株主総会の決議事項のすべてについて議決権を行使できるのが原則ですが、株式会社は、種類株式として、一定の事項、たとえば取締役選任決議についてのみ議決権が付与される株式、もしくはそれにつき議決権のない株式などを発行することができます。 また、一切の議決権が認められない株式を発行することもできます(議決権制限株式)。
これらの株式は、少数株主によって会社を支配することが可能となるため、発行会社が公開会社の場合、発行済株式数の過半数になるような議決権制限株式を発行したときは、その発行は有効なものの、会社は直にそれが過半数を下回るように、普通株を発行したり、発行した議決権制限株式を取得したうえで消却したりすることになります(会社法115条)。
4 譲渡による取得につき当該株式会社の承認を要すること
会社にとって好ましくないものの参加を排除するために、会社は、株式の全部について、譲渡による取得につき当該株式会社の承認を要することを定めることができますが(会社法107条1項1号)、会社は、定款によって、このような譲渡制限を一部の種類株式についてのみ設定することができます。
議決権や拒否権などにおいて他の株式に優先するいわば強力な株式についてのみ、この譲渡制限を設定し、そのような強い権限を持つ株式が第三者の手に渡るのを防ぐこともできます。
5 株主が当該株式会社に対してその取得を請求できること
株式会社に対して株主がその有する株式の取得を請求することができる内容の株式を、「取得請求権付株式」といいます(会社法2条18号)。
株式会社は、その取得の対価として、株式会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債、株式その他の財産を株主に交付することを定款で定めておくことができます(会社法108条2項5号)。
実務上、取得の対価が、現金の場合は「義務償還株式」、株式会社の他の種類の株式の場合は「転換予約権付株式」と呼ぶことがあります。
6 当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得できること
株式会社が、株主の同意なしに、一定の事由が生じたことを条件として株主の有する株式を取得することができる内容の株式を、「取得条項付株式」といいます(会社法2条19号)。
株式会社は、その取得の対価として、株式会社の社債、新株予約権、新株予約権付社債、株式その他の財産を株主に交付することを定款で定めておくことができます(会社法108条2項6号)。
実務上、取得の対価が、現金の場合は「随意償還株式」、株式会社の他の種類の株式の場合は「強制転換条項付株式」と呼ぶことがあります。
拒否権付の種類株式によって、議案が繰り返し否決されたりして、会社運営がデッドロックに陥った場合や、証券取引所への上場が決定した場合などに、取得条項に基づいて会社が株式を取得し、取得の対価として普通株を交付するような場合に利用されます。
また、シリーズAの増資に続くシリーズBの増資において、一株あたりの発行価額が前回の増資よりも低額になると、シリーズAで株式を引き受けた株主の権利は希薄化することになります。そのような希薄化に備えて、希薄化防止の条件を取得条項(取得請求の場合も同じ)の設計に含ませることもあります。
7 当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること
2以上の種類の株式を発行する株式会社における、そのうちの1つの種類の株式の全部を株主総会の特別決議によって取得することができる旨の定款の定めがある種類の株式を、「全部取得条項付種類株式」といいます(会社法108条1項7号、171条、309条2項)。
この種類の株式を利用することによって、たとえば100%減資(会社の再建のために既存の株主を全て株主ではなくして、新たな出資者を募る場合に、既存の株式の全部を会社が取得し、同時に消却すること)を、株式会社が、株主全員の同意を得ることなく、株主総会の特別決議で行うことができます。
8 株主総会や取締役会の決議事項で当該決議のほか種類株主総会の決議を要すること
株主総会や取締役会の決議事項について、それらの決議のほかに、特定の種類株主で構成される株主総会の決議を要するとすることで、いわば、その決議事項につき、当該種類株主に「拒否権」が与えられることになるものです。
拒否権は強力な権利であるため、拒否権付株式は、「黄金株」と呼ばれることもあり、敵対的な企業買収に対する対抗手段として用いられることもあります。
9 種類株主総会において取締役または監査役を選任すること
これは、ある種類株式の株主に対しては、その種類株主総会において3人の取締役を選任する権利を与え、他の種類の株式の株主に対してはその種類株主総会において2人の取締役を選任する権利を与える等ということを可能にしようという内容のものです。
公開会社および委員会設置会社は、この種類の株式を発行することはできません(会社法108条1項柱書)。
この種類の株式は、少数の株主によって会社支配を恒常化することができる点で公開会社にはふさわしくなく、また、この制度は委員会設置会社の指名委員会と矛盾するからです。