■第1回:ストック・オプションの前フリ(2008/1/29)
このコラムは,主として専門家(自称専門家を含みます)以外の皆様を対象にしております。
このコラムもずいぶんと古いのですが,なぜかググるとあいかわらず上位にランキングされるという,わたくしとしてはなんともフクザツな心境でございます。
早いもので,わたくしも40に達し,人生の平和島折り返し地点ということで,巨大なポールを回った心境で,コラムをマイチェンいたします。
わたくしは,もともと読書がダイッキライなワケですが(おそらく一生治りません),もろもろの必要に迫られて,やむなく巷のストック・オプションに関する本を大量に読んできました。ただ,これらの本は,あくまでわたくしの個人的な感想ではございますが,まるで「せっかちな男の子」のように,すぐに「制度の話」「法律上の問題」「税務上の取り扱い」「評価の方法」など,それぞれの著者のお得意な分野にドーンと突っ走る傾向がある・・・ように思いました。ですから,お得意でない分野は,紙数も少ないからバレバレというワケです。
したがいまして,あまりこれらの本では紙数を割かれていない部分を中心に話を展開したいと思います。かなりユルい内容でアドリブっぽいですが,全部キメでやっております。
【もうけるどころかおカネを払う??】
まず,「ストック・オプションは新株予約権(の一部)である」と説明し,これまでの制度の沿革も含めて長々と書かれている本が多々あります(注:これがワルいと申しているわけではございません)。しかし,この話が出ると,たちまち「オナカいっぱい」になり,かえって本質をつかめない場合もあるのではないかと思われます。古墳時代で終わってしまう・・・そういう感覚です。このコラムにおきましては,とりあえず「ストック・オプションはストック・オプション」として話を進めたいと思います。
ではここで,さしあたり,ストック・オプションを定義させていただきたいと思います。「会社法第○条の・・・」「新株予約権の・・」「役員・従業員の・・・」と書くと他と一緒になってしまいますよね。ここでは,ストック・オプションとは,「ある一定の期間にある特定の株価で株式を買うか買わないかを選択できる権利」といたします。ここでちょっとアタマに留めておいていただきたいのは,「株式を買う」ということは,「その会社の株主になる」ということになります。
いきなり混乱していらっしゃる方もいるかもしれません。申し訳ございません。ストック・オプションというのはおカネがドカ〜ンと入ると思っていたのに,逆に「株式を買う」とはおカネを払うことでなないかと・・極めて健全だと思います。恐れ入りますが,しばしお耐えくださいませ。もう少し読み進めていただければと思います。
ストック・オプションとは,ある特定の株価で株式を買うか買わないかを選択できる権利です。ある特定の期間内に,株式を買う選択もできますし,買わない選択もできます。
ストック・オプションは誰もが持っているわけではありません。会社からもらうものです。
「あなたはいつからいつまでの間にこの株価でわが社の株式を買うことができますよ。その期間内にあなたが買うことのできる株式数は○○株です。」という契約を会社と結ぶのです。
まだ,専門用語を使っていないと思います。わたくしはせっかちな男の子ではございません。ただ,すでに「一定の期間」とか「特定の株価」とか前フリが入っています。
【株式を買うか買わないか】
通常,ストック・オプションを持っている人は,株式を買うか買わないかを,契約で決められた「ある特定の株価」と現在の株価とを比べて判断することになります。
たとえば,ある会社のストック・オプションの「ある特定の株価」は9,000円だったとします。そして,現在その会社の株価が10,000円だとします。
一般の人がこの会社の株式を1株買うには,10,000円が必要です。
ストック・オプションとは,「ある一定の期間にある特定の株価で株式を買うか買わないかを選択できる権利」です。
このとき,通常の経済合理性のある人でしたら,「ある特定の株価」は9,000円ですから,
「一般の人よりも1,000円安く買うことができておトクだ」「買っちゃおうかな〜」と判断するのではないでしょうか。
つまり,ストック・オプションを持っていない一般の人がその会社の株式を買う株価よりも「ある特定の株価」が小さい状態であるときに,「今なら株式を一般の人より安く買えてオトクだ」と判断すれば,ストック・オプションを利用してある特定の株価で株式を買おうという選択をすることになります。
逆に,現在その会社の株価が8,000円だとします。一般の人がこの会社の株式を1株買うには,8,000円が必要です。
ストック・オプションとは,「ある一定の期間にある特定の株価で株式を買うか買わないかを選択できる権利」です。
このとき,通常の経済合理性のある人でしたら,「ある特定の株価」は9,000円ですから,
「一般の人よりも1,000円余計に払うんじゃあソンだなあ」「買うのはよそうかな〜」と判断するのではないでしょうか。
つまり,ストック・オプションを持っていない一般の人がその会社の株式を買う株価よりも「ある特定の株価」が大きい状態であるときに,「今なら株式を一般の人より高く買うのはソンだ」と判断すれば,ストック・オプションを利用しないという選択をすることになります。買うとしても,ストック・オプションを利用せずに一般の人と同じ株価で株式を買おうという判断になるでしょう。
そろそろガマンの限界に達してきました。
専門用語を紹介したいと思います。ストック・オプションとは「ある一定の期間にある特定の株価で株式を買うか買わないかを選択できる権利」と定義いたしました。
ストック・オプションを会社が与えることを「割当て」,会社とストック・オプションを割当てられた人が交わす契約を「割当契約」といいます。ストック・オプションを割当てられた人が,それを利用して株式を買うことを「権利行使」,権利行使する場合の「ある特定の株価」のことを「権利行使価格」といいます。ストック・オプションを権利行使できる一定の期間を「権利行使期間」といいます。
「割当」でなくて「付与」とする公式文書や基準や書籍もあります。このコラムはユルユルなので,厳密な使い分けはあえていたしません。
【しょせんは株を買う権利】
ストック・オプションを権利行使すると,会社に対して「株式数×権利行使価格」の金額を払いこんで株主となります。この段階でのストック・オプションのウマ味は,「ほかの人より安く株式を買うことができた」「少ない出費で済んだ」ということです。
実は,ストック・オプションそれ自体のメリットは究極的にはこれだけなのです。
ストック・オプションを権利行使して得られるものは,少ない資金でその会社の株式を買える,その会社の株主になるということなのです。
しかし,ご存知のとおり,ストック・オプションの本当のメリットは,権利行使によって安く株式を購入して,その株式を売却したときに得られるキャピタルゲイン(株式売却益)です。他の人よりも安く株式を購入できれば,それだけ売却益も大きいというわけです。
もう一度定義をおさらいします。ストック・オプションとは,ある一定の期間(権利行使期間)にある特定の株価(権利行使価格)で株式を買うか買わないかを選択できる権利です。
ストック・オプションを割当てられた人は,会社から買うか買わないかの選択権を与えられているに過ぎません。「買うか買わないか,買うとしたらいつ買うのか」はすべて割当てられた人の判断にかかっているのです。
ましてや,「売るか売らないか,売るとしたらいつ売るのか」については完全に個人の自由な判断です。ストック・オプションは,しょせん他人より安く株式を購入できる権利に過ぎないのです。
【買うとほぼ同時に売る】
ところが,実際にストック・オプションで多額の現金収入を得る方々は「株式を買う」という感覚はありません。なぜでしょうか。それは,「権利行使して株式を買うとほぼ同時に株式を売却しているから」です。
ストック・オプションを持っている人はすべてと言っていいほど,「安く株式を買って株主になるというメリット」よりも,「安く買えた株式を高く売り払ってもうけるというメリット」に魅力を感じる方々です。ストック・オプションを持っている人は,他の人よりも安く株式を買うことができます。しかし,株価は絶えず変動しています。先におカネを支払って株主になったのに,持ち続けたがゆえに,その後の株価が下がって儲けが少なくなるというリスクよりも,高い株価と判断したら一挙に権利行使して株式を購入して直ちに売却するのがもっとも安全でリスクもないということになります。
【まとめ・・なぜストック・オプション本がわかりにくいか】
ストック・オプションに限らず,いわゆる専門書は,「誰をターゲットにして書くか」によって,まったく切り口が異なります。学生向けや教養本ならともかく,いやしくも専門書となれば,どうしても「専門家,実務家に読まれる」というのが念頭に出てきてしまいます。自然,著者は力が入ってしまうのです。
すると,ストック・オプションの本題の前に,新株予約権制度を述べなければなりません。しかし,専門家,実務家でない方々は,この段階でもう消化不良を起こしてしまうのではないでしょうか。たまたま資格があるだけで専門家と呼ばれるわたくしも,ウンザリしてしまいます。
ストック・オプションの税務についての説明も,お決まりの「右肩上がりの折れ線グラフ」が登場します。ただ,これらの説明は,ストック・オプションの権利行使でいったん株式を取得してから,その株式を保有し,その後売却するというストーリーで展開されます。このストーリーは,先に述べた,権利行使(株式購入)とほぼ同時に株式売却という一般的なストーリーとは食い違います。それはなぜでしょうか。これは次回以降ご説明しますが,単に権利行使と売却を分けないと税制上のお話がしにくいからです。
この点,このコラムは,主として専門家(自称専門家を含みます)以外の皆様を対象にしておりますので,わたくしのヤリたい放題というわけでございます。
【まとめ・・脱線】
受験勉強などでもそうかもしれませんが,ある特定のテーマについて,基本書とでもいいましょうか,特定の1冊の本だけしか読まない方も少なくないように思われます。
わたくしの場合,たとえばストック・オプションに関する本でしたら,税務なら税務で数冊の本を買って読み込むことにしています。書き手のニュアンスは本によって異なりますし,同じことについて複数の人の書きっぷりを読めば,それなりにバランスのとれた理解ができるし,あわせてテーマに関する理解が深まると思うからです。