弁護士法人 古田&アソシエイツ法律事務所
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コラム 《 ストック・オプション見出し02


 ■第2回:ストック・オプションを語る資格,利用する資格(2008/2/5)

 このコラムは,主として専門家(自称専門家を含みます)以外の皆様を対象にしております。

 すでに第1回をお読みになった鋭い方は,わたくしが「一定の前提」をもとにして話を展開していることにお気付きになられたのではないでしょうか。

 実は,この「一定の前提」が今日のお題,ストック・オプションを語る資格,利用する資格なのです。

ストック・オプションの権利行使】

 ストック・オプションでもうかる仕組みとは,株式を一般の人より安く買って売ることにあります。「仕入値が安いから儲けもデカい」ということです。

 ここで重要なのは,他人より安く買うということは,暗黙のうちに

     ストック・オプションの権利行使価格<権利行使時点の株価

が成立しているのです。

 権利行使価格とは,ストック・オプションを使って株式を買う場合にあらかじめ決められた購入価格です。

 権利行使時点の株価とは,ストック・オプションを持っていない一般の人が株式を買う場合の値段とイメージしてください。

 権利行使価格が,権利行使時点の時価よりも低くないと,権利行使するメリットがあまりありません。なぜなら,権利行使価格として決められたわざわざ高い値段で株式を買うよりも,その時の時価で株式を買うほうがおトクだからです。

 たとえば,現在の株価が10,000円だとします。ここで,ストック・オプションの権利行使価格が9,000円だとすると,「権利行使しちゃおっかな〜。だって1株あたり1,000円安いもん」ということになります。逆に,現在の株価が8,000円だとすると,わざわざ一般の人が買うよりも1,000円高い値段では買わないということです。

 よって,さしずめ以下のような結論が導かれます。

     権利行使価格が低ければ低いほど,権利行使する可能性が高まる

     権利行使価格が低ければ低いほど,権利行使時の時価との開きが大きくなる
     ので,結果として,より「おトク」に株式を買うことができる



【権利行使価格の決まり方】

 ここで,そもそも権利行使価格はどのように決まるのかご説明しなければなりません。

 じつは,極端な話,権利行使価格はいくらにしてもいいのです。1円でもかまいません。

 権利行使価格が1円の場合には,その時々の時価よりも,「常に」と言っていいほど低い状態になります。よって,「いつでも株式を買える」状態になります。さらに,1株1円で株式を買うことができるわけで,だんぜんおトクということになります。

 しかしながら,通常は,会社がストック・オプションを発行することを決定し,これを対象者に付与する場合には,権利行使価格は,「ストック・オプションを付与するときの会社の株価」よりも若干高い金額で決定されることが多いのです。すなわち,

     対象者にストック・オプションを付与するときの会社の株価<権利行使価格

が成立しているのです。

なぜでしょう?

 その理由は,後にご説明する,「税制適格ストック・オプション」の税制適格の要件の一つになっているからです。

 それと,意識しておくといいかもしれない視点があります。ストック・オプションを権利行使するときというのは,通常の場合,「一般の人よりもオトク」ということになります。

 ということは,「一般の人よりも(経済的)利益を得ている」ということになり,「利益を得ているってことは税金がかかるんじゃない?」という視点です。

 単純にタイプ別にやれ課税だの非課税だの,「せっかちな男の子」のように飛びつく前に,「どこで,誰が,なぜトクしているのだろう」という点をイメージすることは,あらゆる政治的,経済的,社会的事象を考察するのにも役立つのではないかと思われます。

【その時々の株価の関係】

 話を戻しまして,権利行使をして安く株式を購入しただけでは,まだストック・オプションのメリットをすべて享受しているとはいえません。その株式を売却してはじめて,キャピタルゲイン(株式売却益)を得ることができるのです。

もちろん,このとき

     権利行使価格<売却時点での株価

という関係になります。

 たとえば,権利行使価格が9,000円のストック・オプションを権利行使して,9,000円で株式を購入したとします。これを,株価が20,000円のときに売却すれば,1株あたり11,000円(20,000円−9,000円)の利益を得ることができます。なお,権利行使したときの株価が10,000円だったとすると,一般の人よりも1,000円安い9,000円で買うことができたわけですから,それだけ売却益も大きいということなのです。

 では,ここで,ストック・オプションを語るときの「お約束」,つまり,「一定の前提」についてコメントしたいと思います。

【「一定の前提」?・・・株価が右肩上がりであること】

 上記の株価の関係を見てみると,基本的にストック・オプションを行使し,売却して付与者がキャピタルゲインを得られる前提の一つが,株価が右肩上がりに上昇する会社であることが容易に理解できると思います。

 株価が右肩上がりでなければ,権利行使もしないでしょうし,権利行使をしないということは株式を購入しないということですから,購入して保有する株式を売却してこそ得られるキャピタルゲインは絵に描いた餅ということになります。

 つまり,そもそも株価が右肩上がりに上昇しない会社では,たとえストック・オプションを持っていても権利行使しようがない,売却しようがないという状況であり,キャピタルゲインで大儲けということは,幻想ないし妄想ということになります。

【「一定の前提」?・・・会社が株式を公開していること】

 ストック・オプションにせよ,そのほかの要因で株式を保有しているにせよ,キャピタルゲインを手にするためには,保有している株式を売却できることが必要です。もちろん売買ですから,買い手がいなければお話になりません。とりわけストック・オプションを利用して,権利行使(株式購入)と株式売却を同時に行おうとしている人は,株がいつでも売れる,逆に言えば買い手にとっては株がいつでも買える状態になければなりません。つまり,株式が市場で取引されていなければなりません。この意味で,ストック・オプションで多額のキャピタルゲインが得られるもう一つの前提が,会社が株式を公開しているということです。株式が公開されていないということは,株式の取引の成立が非常に限られますし,また売却株価も市場で決まらないために,買い手との力関係などで影響を受けてしまい,結果的に十分にキャピタルゲインを得られない可能性があります。

【虚と実】

 ストック・オプションは,インセンティブ報酬とも説明されます。つまり,ストック・オプションを役員や従業員その他に付与することによって,「将来株価が上昇したらたくさん儲かります。だから一生懸命働いてください」ということです。ストック・オプションを付与された人は,通常は,将来の大儲けに向かって会社のためにもがんばろうという気持ちになります。権力者サイド(大株主や役員)からすれば,ストック・オプションの付与をちらつかせることは,自らの求心力の源ともなりましょう。

 ただ,別の事情として,「今は現金がないから十分なサラリーを払えない。しかしこれでは優秀な社員をつなぎとめることができない。それならストック・オプションというインセンティブを与えれば優秀な社員をつなぎとめることもできる。」という側面もあります。

 重要なのは,「会社の業績が向上し株価が上がる」ということがあたかも規定事実であるかのようになっているということです。株式未公開のベンチャー企業などの場合,さらに「(近い)将来株式を上場する」ということが加わります。未公開会社が株式を公開(上場)できない見通しとなれば,ストック・オプションは紙くず同然・・・とまでは言わないまでも,その効果はほとんど発揮できないままとなります。何より,ストック・オプションの付与を受け,将来の大きな収入に胸膨らませ,これまでの(おそらく)少ないサラリーに甘んじて働いてきた人たちのモラル(士気も道徳も)は急激に低下することでしょう。

 冷めた現実的な役員や従業員は,「ストック・オプションをいただけるのはありがたいけど,それより現実のキャッシュのサラリーをもっとちょうだい」となるでしょう。

【鶏とタマゴ】

 このように,ストック・オプションの効果が発揮されるのは,会社が右肩上がりに成長して株価が上昇することです。とりわけ株式を公開していないベンチャー企業の場合には,株式公開(上場)を果たすことが前提となります。

 一方で,株式公開を果たすためには,ただただ儲けて儲けて儲けまくるだけでもダメで,事前に社内の整備や株主関係の調整を計画していなければなりません。ここで,株式公開までの株主関係や資金調達などをプランニングすることを資本政策といいます。

 資本政策では,一般に,ゴール(株式公開時)での株主関係や想定株価,資金調達額や創業者等のキャピタルゲイン,その時の会社の業績などを設定しながら,どの段階でベンチャーキャピタルから増資を受けるとか,どの段階でストック・オプションを発行するかなどを決めていきます。

 資本政策では,会社が右肩上がりに成長することは当然の前提になっています。

 つまり,資本政策の紙の上では,対象となる会社は「超」がつく成長企業です。しかし,机上と現実は大きく異なることがむしろ通常です。

 いかに素晴らしいビジネスモデル,資本政策といえども,時代に受け入れられ,市場に認められ,現実の業績が伴わなければ株式公開はありえません。他方,一定の希望的観測を前提にキチンとしたプランニング(ストック・オプションも含めて)をしなければ現実に株式公開をしたときに十分な効果を発揮できないのです。

【まとめ】

 ストック・オプションは,とりわけベンチャー企業では人材確保やインセンティブ目的では極めて有効な手段とされます。ただし,すでに目覚しい業績を挙げている会社であればともかく,その段階に至っていないのに,ストック・オプションとか資本政策に汲々としている会社もあるやに聞きます。確かに,早い段階からそのような施策を講ずることは大切なことです。しかし,これらの施策も,業績が伴って初めて現実味が増してくると思われます。

 逆に,うまく資本政策に業績が伴っていても,それを維持するため,無理やキシみや歪みが生じることもしばしばです。ストック・オプションは,そもそも株式公開を実現し,その効果を現実のものとするためのインセンティブなのに,それがゆえにかえって社内がガタガタになり,全社的なパフォーマンスが減退するという状況もあるやに聞きます。「身内で細々やってた方が楽しかった」と・・・

 その時々のタイミングと状況によってバランスをとるのが何より肝要かと思われます。

 

第3回に続く


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