■第4回:所得税を知る(その1)・・・サラリーマン編(2008/2/27)
このコラムは,主として専門家(自称専門家を含みます)以外の皆様を対象にしております。
ストック・オプション自体からちょっと(?)脱線して,ここ数回は所得税の話が中心になります。ご容赦ください。
【専門書の読み方】
さて,ストック・オプションがらみの書物では,「税制適格」だの,「税制非適格」などの用語が連発します。そもそも,ストック・オプションに限らず,俗に言う専門書というものは,それぞれの専門家が自分のお得意の分野で執筆します。例えば,法律的な面は弁護士が,手続(登記)の面では司法書士が,会計や資本政策がらみについては公認会計士が,税務面については税理士がというように・・もちろんそれぞれ得意分野や守備範囲がありますので,「すべてがわかる」と帯に書いてあっても,得意分野以外の部分は紙数が少なかったり,説明にファジーな部分があるものです。それぞれ異なる分野の専門家が書いた複数の本を読むと偏りがないと思います。また,同じ分野の専門家が書いている複数の本を読むと,微妙な切り口の違いでさらに理解が深まると思います。
それともうひとつ,ニュートラルに読むことが大切です。「こうしたい。こういうルールであってほしい」という願望があると,どうしても読む本読む本自分の都合のいいように読んでしまうのです。あげく痛い目見て,「この本はオカシイ」とか的外れな怒りとなってしまうのです。キモチを押さえて,冷静に本を読み,ニュートラルに解釈しましょう。
キモチはよくわかりますが・・そのおキモチは
【すべてを知らないとダメか】
脱線しましたが,「税制適格」を語る前に,そもそも所得税について理解していないと混乱します。なぜなら,ストック・オプションの税務というのは,原則的な所得税の課税のしくみをベースにした特例措置だからです。所得税の課税を規定しているのは所得税法というものですが,このストック・オプションの税制適格を規定しているのは租税特別措置法というものです。原則を理解していないと,人に説明しても聞く側に「こいつホントはわかってないな」と悟られます。
とはいえ,所得税のすべてを知らないとすべてストック・オプションについて理解できないかというとそうでもありません。必ずしもある異性のすべてを知らないとその人と付き合っているとはいえないわけではないのと同じです。
そこで今回は,所得税と住民税のしくみについてご説明します。
【確定申告と年末調整】
所得税とはその年(1月1日から12月31日まで)の所得について課税されます。基本的には,自らが「アタシは(オレは)これだけ所得がありました」と税務署に申告することになっています。これを確定申告といい,翌年の2月16日から3月15日までに税務署に確定申告書を提出します。
大半の人(サラリーマンの大部分)は勤務先がやってくれる年末調整によって終了してしまい,確定申告はする必要がありません。
ただし,以下のようなサラリーマンの方は所得税の確定申告をすることになります。
? いろんな事情(前職の源泉徴収票出し忘れなど)で年末調整してもらえなかった。
? 年末調整の時期に,生命保険料の控除証明書などを提出し忘れた。
? 給与が2,000万円以上だった(年末調整されません)
? 2ヶ所以上から給与をもらった(源泉徴収票が2枚以上ある)
? 別の収入がある(不動産の賃貸や原稿執筆,会社にナイショの副業など)
? 積立してた生命保険が満期になって保険金を受け取った
? 医療費が10万円以上かかった(医療費控除)
? ローンして家を建てた(住宅借入金等特別控除)
? 不動産を売却した(譲渡所得)
? 株式を売却した(特定口座&源泉徴収選択&損益通算なしでは確定申告は不要)
? その他もろもろ
大半のサラリーマンは年末調整で完結し,会社から源泉徴収票をもらって終わりです。なぜそれが可能かといいますと,勤務先は給与を払うときに,決められた一定の金額の所得税を天引きして,翌月10日までに税務署に納税しているからです。これを源泉徴収といいます。年末に1年間の収入が確定するときに,年内に扶養家族の異動があったかとかいくら生命保険料を払ったとかを加味して(例の2枚の緑の用紙です),税金の額を再計算する作業が年末調整です。勤務先は,最終的な所得税額とこれまでに天引きしていた所得税額とを比べて,本人に還付したり追加徴収するのです。ただし,医療費とかについては年末調整ではできないことになっているので,確定申告ということになります。
ところで,「2ヶ所以上から給料をもらった人」で,「そのうち1ヶ所は年末調整されてるのに何で年末調整なんだよ。お前バカなんじゃないか?」と思われた方もいるでしょう。余談5を参照ください。
それから,株式の譲渡については,第6回をご覧ください。
【住民税は1年落ち】
さて,確定申告書によって所得税は確定するのですが,その情報は本人の住所がある市区町村に送られます。今年確定申告をされた方はご存知かもしれませんが,申告用紙は複写式になっていて,所得税用と住民税用に分かれているのです。その住民税用が市区町村に送られるのです。一方,年末調整をやった勤務先は,翌年1月末までにやはり従業員等の住所がある市区町村に源泉徴収票と同じ内容の書類(給与支払報告書)を送ります。
市区町村は,その情報を見て,それぞれの人の住民税額を算定します。つまり,住民税は前年の所得をベースにして課税されるのです。
そして,原則として本人に納付書を送付し,本人が納税することになります。ただし,本人がサラリーマンの場合には,その勤務先に「この人の住民税はいくらなので,毎月の給与からこれだけ天引きして翌月10日までに納付してください」と連絡されて,納税するのは勤務先です。このように本人ではなく勤務先が住民税の天引きと納税を行うやり方を特別徴収といいます。対して,本人に納付書を送付して本人が納税するのを普通徴収といいます。
最近,この1年ズレを修正しようという動きがでているのはご存知のとおりです。
【同じ天引きでも違う】
特別徴収の場合,毎月のお給料からは,所得税のほかに住民税も引かれることになります。同じ天引きされる税金でも,所得税はまさにその月に払われる額をベースにして計算されますが,住民税は,前年の所得をベースにして市区町村から決められているので,基本的に1年間は変わりません。
ですから,不幸にも勤務先で給料ダウンとなった場合,住民税は前年の所得をベースにして今年の月々の天引き額が決められているので,手取り額はさらに少なくなります。踏んだり蹴ったりとはこのことです。
それから,サラリーマンでない事業者は,儲かりまくったからといって使いまくってしまうと,翌年にそれに対する住民税がかかってきますので,調子に乗って使いすぎにはくれぐれも注意しましょう。
【(余談1)サラリーマンとは】
ここでいうサラリーマンとは,所得税でいうところの「給与所得者」です。なお,サラリーウーマンも含みます,念のため。日本人の大部分はサラリーマンです。フリーターや試用期間中の人から,超ワンマン社長や政治家のセンセーに至るまで,およそ「給料明細」をもらっている人(なお,センセーは「歳費」です)を指します。
いわゆる専門家や作家,ホステスやホストの方などは,10%(100万円超の部分は20%)所得税を引かれておカネをもらうわけですが,これらは少なくとも所得税のレベルでは報酬であって給料ではありません。「3並び」とか「5並び」という隠語がありますが,これは「3並び」では,報酬33,333円,源泉10%で3,333円,手取り報酬が30,000円という意味です。なお,ホステスやホストの方でも,給料制になっているところはあります。もっとも,勤務先では年末調整はせずに,源泉徴収票だけ発行して,本人が確定申告するようにしてもらっているケースも少なくないようです。
【(余談2)勤務先に内緒のバイトがバレるとき】
不景気を反映して,勤務先に内緒でバイトする方も少なくありません。ところが,周囲の誰にもしゃべってないのに,あっさりバレることがあります。それは,バイト先が先ほど述べた給与支払報告書を市区町村に送付した場合です。市区町村の住民税担当は,勤務先からの給与支払報告書とバイト先からの給与支払報告書を合算してその人の住民税額を計算します。そして,勤務先にその人の今年の特別徴収額を連絡するときに,その計算過程の表も併せて送ります。この表に総務や人事が目を光らせていると,たちまち副業が露わになってしまいます。勤務先が支払った給与収入より多い給与収入が記載されているからです。
【(余談3)ナヌ?年末調整で還付どころかさらに天引きされた?・・扶養家族編】
サラリーマンの方は,例えば去年の年末調整で,扶養控除等(異動)申告書を提出したと思います。扶養家族の状況を明らかにするものです。なぜか「平成20年」と書いてあって疑問に思った方もいるでしょう。
実は,扶養控除等(異動)申告書は,平成20年の最初の扶養家族の状況を申告するわけですが,平成20年の最初ということは,平成19年の年末ということです。これを出してもらうことで,年末調整を行うときの扶養家族の状況を把握できるのです。年の途中で扶養家族が増えたり減ったりしても,年末の状況が分かるという訳です。
実は,月々の給料から天引きされる所得税は,給料の額面金額と扶養家族の数で決まります。給料が同じ場合,扶養家族が多ければ源泉額は少なくなり,手取りが増えるのです。扶養家族が3人として所得税を天引きされていた人が,年末調整で扶養控除等(異動)申告書で「扶養家族なし」と申告すると,結果として月々の源泉が少なかったため,1年間の源泉所得税よりも,扶養家族なしとして計算した1年間の収入に対する所得税額の方が大きくなるので,勤務先は追加徴収することになります。
なお,勤務先で年末調整をして,仕事納めをした後で,扶養者が増えたり減ったりした場合には,年明けに勤務先でもう一度年末調整してもらうか,確定申告をするということになります。
【(余談4)ナヌ?年末調整で還付どころかさらに天引きされた?・・賞与編】
年末調整とは,勤務先がその人の1年間の年収が固まる年末に,所得税額の計算を行い,それまで源泉していた所得税額との精算を行う作業です。年収に占める賞与の割合が高い,つまり,月々の給料に比べて,賞与がやたらと出る勤務先があるとします。月々の給料が低すぎるのか,それともたまたま儲かり過ぎたのかはわかりません。ただし,賞与に対する源泉所得税の金額は,給料の場合よりも少ないために,年収に占める賞与の割合が高いと,1年間の給料と賞与を合わせた年収に対する所得税額よりも,1年間の源泉所得税の合計額が少なくなることがあります。この場合には,所得税を追加徴収されてしまいます。
【(余談5)2ヶ所以上からお給料】
毎月のお給料を支払うときにいくら源泉所得税を差し引くのかは法律で決められています(源泉徴収税額表)。その月のお給料(通勤交通費は所得税が非課税なので除きます)から社会保険料(雇用保険,健康保険,厚生年金など)を差し引いた金額よって決まります。
ところで,会社に入社したときや前年の年末調整のときに扶養控除等(異動)申告書を提出すると思います。この申告書の有無で毎月のお給料から差し引かれる源泉徴収税の金額が違うのです。甲欄,乙欄,丙欄といういまどきめずらしい呼び方で区分されています。扶養控除等(異動)申告書が提出された人には,甲欄のテーブルで徴収金額を出します。甲欄では,扶養人数に応じて毎月の徴収する税金が異なります。扶養人数が多いほど徴収税額は小さいです。
いっぽう,扶養控除等(異動)申告書が提出されない人には,乙欄または丙欄のテーブルで徴収金額を出します。丙欄は日雇い労働の方で適用します。
ここで,実は扶養控除等(異動)申告書は1ヶ所しか出せません(主たる給与)。ですから,2ヶ所以上から給料をもらっている人は,2ヶ所目からは乙欄で会社は徴収することになります(従たる給与)。乙欄は差し引かれる税金が甲欄よりも大きいです。
年末調整ができるのは甲欄で徴収した主たる給与を支給した会社だけです。乙欄で徴収した会社は年末調整をせずに源泉徴収票だけを本人に渡します。
確定申告は,1年間のすべての所得を申告します。年末調整した源泉徴収票も,あらためて申告書上で再計算することになります。適正に年末調整されていれば,源泉徴収票のデータを申告書に書き込むと,所得税額と源泉徴収税額が同じ金額になって納税額がゼロになるはずです(だから年末調整で終了するのです)。
2ヶ所以上から給料をもらっている人は,いったん給料収入を全額合計して計算された税額が,2ヶ所以上から差し引かれた源泉徴収額の合計と比べて多ければ納税となり,少なければ還付となります。乙欄は多めに源泉が引かれているので,確定申告で還付になることが多いです。
すると,複数の会社で年末調整されていたとしたら,あなたが他で働いているのを隠していたか,どこかの会社(扶養控除等(異動)申告書がない会社)が間違って甲欄で源泉徴収して年末調整してしまったかということになります。この場合,このどこかの会社は,税務署から(徴収税額の大きい)乙欄で徴収すべき人を甲欄で徴収していた「源泉徴収モレ」として罰金の対象になります。そして,確定申告すると収入が合算される一方,源泉徴収された税額は少なめですから,納税ということがありえます。
【(余談6)アウトソーシング花盛りのなかで】
最近は「正社員化」というトレンドもありますが,給与計算や源泉徴収事務も全部アウトソーシングというケースも少なくありません。
ところで,給与は個人の生活において最も重要な要素の一つです。ミスは誰しも犯すとはいえ,この分野のミスは絶対に起こしてはならないものであると思います。
ところが,委託先企業との連絡がうまくいかないのか,給与過払い,翌月差引きとかが頻繁に行われたり,年末調整をミスしたりするケースがあるようです。
これは人事の分野に限らず,経理や営業などあらゆる分野に言えることですが,委託先企業は「全部アウトソーサーにお任せしてるから(当方に責任はない)」,受けたアウトソーシング会社の方は「委託先からの情報が正しくなかったから(当方に責任はない)」というスタンスで,委託先も受託先(アウトソーシング会社)もどちらも派遣社員やバイトを使って作業をさせているため,実際の担当者の責任意識は希薄で,さらに担当者がコロコロ変わるのに引継ぎがうまくいかないからまたミスが出る,結局誰も分からないという悪循環のケースもあるようです。
しかも,人事系給与系の情報は,その性質上,社内でも一部しかタッチできないため,実際の作業はアウトソースしても,やろうと思えば自分でも作業ができ,キチンとチェックできる正社員がいないとミスすら発見されないこともあるといいます。
大半の方は,年末調整の結果など,源泉徴収票を見てもほとんどノーチェックが現実ではないでしょうか。
不幸にも,給与振込みミスとかがよくある勤務先にお勤めの方は,給与明細をキチンと保存し,年末調整の結果に疑問がある場合には,すぐに勤務先に照会すべきでしょう。
【まとめ】
脱線にも程があり,余談がメインになった感をぬぐえません。別のコラムでもよかったくらいですよね。次回は所得税用語満載です。