弁護士法人 古田&アソシエイツ法律事務所
 home>法律Q&A > コラム:ストック・オプション

「弁護士法人古田&アソシエイツ法律事務所」は,2008年4月30日付で事務所名を「弁護士法人クレア法律事務所」に変更しました。 当事務所の新しいサイトは「http://www.clairlaw.jp/」です。新しい情報はこちらに掲載しています。 ブックマークの更新をお願いします。

コラム 《 ストック・オプション 》 見出し


 ■第5回:所得税を知る(その2)・・・総論編(2008/2/27)

 このコラムは,主として専門家(自称専門家を含みます)以外の皆様を対象にしております。

 ストックオプション自体からちょっと(かなり?)脱線して,ここ数回は所得税の話が中心になります。申し訳ございません。

【所得税のかかり方】

 平成19年分の所得税(確定申告の期限は平成20年3月17日)は,とりあえず大雑把に申し上げると以下のようなイメージとなります。

{(所得A−所得控除額B)×税率C}−税額控除額D=所得税額E

所得税額E−既に納めた所得税(源泉など)F=納税額(または還付額)G

所得(A)はなんと10種類に分かれており,それぞれ算定方法が違います(ここが重要!)。

所得控除額(B)の典型例が配偶者控除,扶養控除,医療費控除です。

税率(C)は,所得の種類や金額によって税率(5%〜40%)が異なります。

税額控除額(D)の典型例が住宅借入金等特別控除です。

既に納めた所得税(源泉など)(F)は,サラリーマンの方なら,源泉徴収票の右サイドに書かれた「源泉徴収額」です。年末調整された方は,年末調整された後の税額が記載されています。年末調整されていない方は,その年にその会社から給料で天引きされた金額の累計が記載されています。個人事業主でクライアントから10%など源泉徴収されているときは,年明けにもらう「支払調書」の右サイドに書かれた「源泉徴収額」です。このほかにも,個人事業主には,予定納税といって,前年の税額の3分の1ずつを8月末と11月末までに納める制度があります。

納税額(または還付額)(G)は,確定申告の必要がない大半のサラリーマンは年末調整で行われます。

【10類の所得(】

 所得とは,平たく言えば「もうけ」のことです。基本的には,以下の式で表されるでしょう。

 所得=収入−経費(収入のために必要な経費・・いわゆる必要経費)

 所得税でいう所得も,基本的にはこのスタイルですが,所得が10種類もあります。

 利子所得,配当所得,事業所得,不動産所得,給与所得,退職所得,譲渡所得,山林所得,一時所得そして雑所得の10種類です。

 所得が10種類に分かれ,そしてそれぞれの所得額の計算方法が異なる点が,所得税(法)の重要な特徴です。これはどういうことかと申しますと,ある収入があったとき,それが何所得になるのかによって所得の金額が異なるので,これに対する税額も変わってくるということです。さらに厄介なのが,何所得になるのかの判断は,その個人個人によって異なりうるのです。例えば,ある個人が,土地建物のような不動産を他人に売ったとします。この所得は,通常は譲渡所得になるのですが,不動産の売買を事業として行っている個人(事業者)では,事業所得になるのです。譲渡所得と事業所得ではまったく所得の計算方法が異なりますから(下記参照),税額もぜんぜん違ってくるのです。

 この収入が何所得にあたるのか」・・・これこそ,所得税において極めて重要な要素であり,この判断いかんで税務当局とのトラブルが生じます。かつて,裁判で争われていたストックオプションに関する訴訟も,この点にありました。

【総合課税と分離課税】

 先ほどのアバウトな所得税の式の前半部分をあらためて示します。

 {(所得A−所得控除額B)×税率C}−税額控除額D=所得税額E

 所得税は,所得(A)をそれぞれのタイプに分けて計算し,これを合計した額から所得控除額(B)を引いて税率を乗じるのが基本です。そして税率は,所得額が大きくなるに従って税率も上昇する累進課税方式(5%〜40%)となっています。このように,所得を合算して所得税額を計算する課税パターンを総合課税(制度)といいます。

 ところが,所得の中には,他の所得と分離して独自に所得額と税額を計算するものがあります。

・土地,建物等の譲渡(基本は譲渡所得,ケースにより事業所得・・前述)

・株式等の譲渡(基本は譲渡所得,ケースにより事業所得や雑所得)

・山林所得

 これらは,他の所得と分離して税額を算定し,確定申告を行って納税します。このような課税のパターンを申告分離課税(制度)といいます。

 例えば,株式を売却して大もうけしたとき,この所得が他の所得と合算されてしまったら,所得税率は最高の40%になり,住民税と合わせたら50%くらいが税金となってしまいます。

 分離課税により,これらの税額は個別に計算されるのです。

 ところで,譲渡で所得ばかり出るわけではありません。損失(赤字)も出ることでしょう。このとき,損失は原則として他の(黒字の)所得と合算(相殺)できます。これを損益通算といいます。

 しかし,すべてが損益通算できるわけではありません。オイしい損益通算はできません。例えば株式の売却で発生した損失(赤字)は,他の株式の売却で発生した利益(黒字)と通算することはできますが,異なる所得,例えば給与所得などと通算することはできません。

【数式の修正】

 以上を考慮すると,先ほどのアバウトな所得税の式の前半部分は修正されることになります。

(修正前)

{(所得A−所得控除額B)×税率C}−税額控除額D=所得税額E

(修正後)

(総合課税の税額C1+分離課税の税額C2)−税額控除額D=所得税額E

総合課税の税額C1=(総合課税の所得A−所得控除額B)×税率C(5%〜40%)

分離課税の税額C2=分離課税の各所得×各所得の適用税率C

 なお,先に述べた損益通算が行われるときは,若干の修正が入ります。例えば,所得控除額(B)はまず総合課税の所得から差し引いて税額を計算します。総合課税の所得が赤字のときは,分離課税の所得から差し引きます。

【確定申告書様式との関係】

 非常にわかりにくい説明になって恐縮ですが,ここで,確定申告書の様式との関係で整理します。

 総合課税の所得しかない場合には,確定申告書は「A様式」(第一表と第二表)を使います。分離課税の所得もある場合には,「B様式」(第一表と第二表)を使い,分離課税の所得と税額を計算する「第三表(分離課税用)」と併せて申告します。これらの申告書様式は国税庁HPで見ることができますので,余裕のある方は検討されると理解が深まると思います。ちなみに,分離課税の所得がない場合でも「B様式」(第一表と第二表)を使えます。

【(余談1)所得税を差し引かれてそれで終了してしまう所得・・源泉分離課税】

 所得の中には,支払いを受けるときに先方から税金を差し引かれて(源泉されて),確定申告もせずにそれで終了してしまうものがあります。たとえば,預金利息(利子所得)や上場会社からの配当(配当所得)などです。これらは,支払いを受けるときに所得税を差し引かれています。このような課税のパターンを源泉分離課税(制度)といいます。普通預金の利息など,2月や8月に(信用金庫などは3月と9月のときもあります)通帳記帳すると入金されていますが,実はこれも20%(うち所得税15%,住民税5%)が既に差し引かれているのです。

 また,退職所得ですが,これも退職金が支払われるときに独自に所得税と住民税が計算されて,基本的には課税関係が終了します。「基本的には」ということで,例外もあります。また長くなるので,キーワードのみ申し上げます。「退職所得の受給に関する申告書」「源泉所得税20%」です。

【(余談2)所得控除(B)と税額控除(D)のインパクトの違い】

 所得控除(B)は,所得に税率を乗じる前の段階なので,税額に与えるインパクトは,「所得控除額×税率」にとどまります。例えば,医療費控除は所得控除ですが,医療費を何十万円支払ったサラリーマンの方は,確定申告すれば所得税が還付されますが,還付される額は,通常は医療費から10万円を引いて税率を乗じた分にとどまります。なお,住民税の計算でも医療費控除は適用されますので,確定申告したほうが住民税も減ります。

 一方,税額控除(D)は,所得に税率を乗じた後の所得税額(E)から控除するので,税額に与えるインパクトは,ダイレクトに税額控除額そのものになります。

【(余談3)住宅借入金等特別控除について】

 住宅借入金等特別控除は所得税の税額控除(D)ですが,これは住民税には適用がありません。つまり,住宅借入金等特別控除で所得税は減りますが,住民税はそれがないものとして計算されます。ですから,所得税の税率より住民税の税率が低いので,通常は所得税のほうが住民税よりも負担が大きいのですが,住宅借入金等特別控除があると,所得税よりも住民税の負担が大きくなることがあります。

 確かに,住宅借入金等特別控除を受けると,所得税で税額控除を受けるので所得税は助かります。ただ,住宅を取得したということは,取得時の不動産取得税や毎年の固定資産税(言ってみれば維持費)を負担しなければなりません。これらは地方税(ある意味住民税)ですから,国税の負担が減って地方税の負担が増えているという意味で,考え方によっては,昔からあった「税源移譲」とも言えましょう(もちろん厳密な構成ではありません)。

【(余談4)税金対策と可処分所得・・・お買い物は有効か?】

 よく,「税金対策でいっぱいお買い物しなくちゃ」という話があります。例えば,現在,収入100,経費10で,差引(儲け)90とします。儲け90に対する税率が50%であれば,このままでは45が税金になってしまいます。そこで,「いっぱいお買い物」となるわけです。で,80のお買い物をします。これがすべて税務署もOKの経費だったとすると,収入100,経費90(=10+80)で儲けは10です。儲け10に対する税率が10%であれば,税金は1となります。

 さて,一歩引いて考えてみましょう。税金払った後で手元にいくら残ったのでしょうか。この税引き後の金額(可処分所得)で,貯金したり投資したりプライベートの支出にあてるわけです。「お買い物」前では45,「お買い物」後では9です。これをどう考えたらいいのでしょうか。「お買い物」には80を支出しました。しなければ45も手元に残りました。80の支出が,翌年以降の収入にもつながるような有益な支出であればいいのですが,そうでない場合,9しか手元には残らないことになります。

 それでも,このスキームが有効な点は,「お買い物」をして儲けが下がり,結果として適用される税率が下がった点です。

 では,条件を変えて,「お買い物」後の儲け10に対する税率も50%だとします。税金5を引いた残りは5しかありません。お買い物しなければ手元に45残ったのに,今や手元には5です。「80支出したから40も税金が減った」と考えるか,「80支出したのに40しか税金が減らなかったから,手元資金が40も減った」と考えるかは気分次第でしょうが,「お買い物」があまり有効でないと,「結果としていくらおカネが残るのか」という点では「???」となります。

 脱線ついでに,これを会社(税金用語では「法人」)の場合で考えてみます。現行の法人税法は,儲けの大きさにかかわらず税率はほぼ一律です(注)。先の「お買い物」80がすべて交際費だったとします。実は,会社の経理でいくら交際費処理して利益を減らしても,すべての交際費が法人税の計算上も費用(損金)として認められるわけではありません。これを,交際費の損金不算入といいます。特に資本金1億円以上の法人では交際費の全額が認められません。先と同じ数値で検討してみましょう。ある資本金1億円の法人が,収入100,経費90,利益10で,経費の中の80のお買い物がすべて交際費とします。法人税の計算では,80の交際費が経費として認められません。すると,経費90のうち交際費の80は認められませんから,法人税の計算は,収入100,経費10,差引き90(所得)に対して税率を乗じることになります。便宜上税率50%とすると,45の税金となります。すると,お買い物(交際費)後の残額は10しかないのに,税金が45もかかってしまうということになります。手元資金が35のマイナスということになります。

 余談の中の余談ですが,経理上の利益は10なのに,税金がかかる所得は90でした。この経理上の当期純利益を,税金が課される利益(所得)に変換するのが法人税の確定申告なのです。

 (注)資本金1億円以下の法人については,所得のうち800万円以下の部分が22%,800万円を超える部分が30%です。なお,法人事業税(地方税)も,原則として所得金額に応じて適用税率が3段階になります。


【おわりに】

 またまた余談が多く,脱線しまくりで恐縮でございます。本文でも述べましたが,所得税で重要なのは,「この収入が何所得にあたるのか」ということですが,この点につき,ストックオプションとの関係では,給与所得,退職所得,雑所得そして譲渡所得がからみます。何年か前に決着がついた「海外親会社から与えられたストックオプションに対する課税」の裁判ですが,その中核はまさに,「そのストックオプションから得られた収入は何所得にあたるのか,給与所得なのか一時所得なのか」ということでした。

なお,説明にあたっては,国税庁タックスアンサーHPの解説を補完していくように心がけました。

 

第6回に続く


個人情報保護ポリシー | サイトマップ       Copyright?2007 古田&アソシエイツ法律事務所 All rights reserved.