■第7回:所得税を知る(その4)・・・株式の譲渡所得(2008/4/9)
このコラムは,主として専門家(自称専門家を含みます)以外の皆様を対象にしております。
【はじめに】
今回は株式の譲渡と所得税について,今までとはちがって独立した回でご説明いたします。
【このコラムでの展開】
個人が,有価証券を譲渡して・・・もっともポピュラーなのが「上場株式を売った」・・儲かったら,所得税がかかります。
譲渡したときの所得ですから「譲渡所得」にはなるのですが・・・
有価証券を売って儲かったときの税金のかかり方は,申告分離課税が原則です。申告分離課税については,第5回でも述べていますが,他の所得とは合算せずに(分離),通常とは別の税率区分で課税するものです。
で,有価証券の譲渡の課税は申告分離課税が「原則」と申し上げましたが,実際には,総合所得として他の所得と合算されてから税率(5%〜40%)が課税されるものもあります。
たとえば,ゴルフ会員権の譲渡などです。
それから,有価証券といっても,その有価証券を発行している会社の資産が主として土地だった場合などには,土地等を譲渡したときの申告分離課税が適用されます(所有期間によって税率が異なります)。
このコラムでは,以下のようにブッタ切ってご説明いたします。
・ 大原則はどうなの?
・ 上場株式を譲渡した場合はどうなの?
・ いわゆるベンチャー企業の株式はどうなの(いわゆる「エンジェル税制」)?
・ ストック・オプションのときはどうなの(第8回以降)?
その時々で,「所得じゃなくて損失が発生したときはどうなの?」がカットインします。
【大原則はどうなの?】
保有していた株式を売却した場合,利益または損失が発生します。具体的には,以下の算式で計算されます。
譲渡損益=売却価額(収入金額)− 必要経費(取得費+手数料)
ここで,取得費というのは,譲渡した有価証券を取得したときの金額です。金銭の払込や購入で取得した場合には,その払込額や購入代価です(付随費用も含みます)。
同一銘柄を複数回取得した場合には,その時々によって株価が異なりますが,この場合,最初の取得時(または直前の売却時)から売却時までの期間を基礎として,その期間内に取得した全額を保有株式数で除して取得費を計算します(いわゆる移動平均法です。所得税法では「総平均法に準ずる方法」と言われています)。
頻繁に取引をしている方は結構面倒ですよね。
ところで,通常,上場株式を売買するときは,証券会社などの金融商品取引業者を通じて行なうことが多いのですが,これら業者に「特定口座」を設定し,この特定口座内で上場株式の取引をし,さらに,「簡易申告口座」を選択すると,金融商品取引業者から送られてくる「特定口座年間取引報告書」から(比較的)カンタンに申告することができます。これが,「特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例」(租税特別措置法37条の11の3)です。なお,特定口座以外での取引がある場合には,区分して申告します。なお,「簡易申告口座」ではなく「源泉徴収口座」を選択すると,確定申告は不要になります(後述)。
【上場株式を譲渡した場合はどうなの?】
株式を譲渡したときに所得があったとき,その所得金額に対して分離課税によって課される税率は20%(所得税が15%,住民税が5%)です。念のため,所得税は国税で,住民税は地方税です。
株式が上場株式の場合,いくつか特例があります。
<特例その1・・・軽減税率>
平成20年12月31日までに,一定の要件を満たす上場株式を譲渡した場合には,税率が10%(所得税が7%,住民税が3%)です。これが,「上場株式等を譲渡した場合の株式等にかかる譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法37条の11)です。
<特例その2・・・取得費の特例>
保有していた株式を売却した場合,利益または損失が発生します。具体的には,以下の算式で計算されます。
譲渡損益=売却価額(収入金額)− 必要経費(取得費+手数料)
売却価額は「これは売りだ!」というときの値段ですが,取得費は,取得したときの金額です。この取得費が小さければ小さいほど儲け(譲渡益)が増えます。ストック・オプションでは,一般の人より安い金額(権利行使価格)で購入できるわけですから,取得費は小さい→譲渡益(譲渡所得)は大きいということになります。
もっとも,譲渡所得が大きいということはそれだけ税金も多くなるというわけです。
裏を返せば,取得費が大きいと譲渡所得が小さくなるから税金が少ないのです。
かつて,株式市場が冷えまくっていた時期がありました。国家は,ものすごい(?)特例を出しました。「取得費を大きくしてしまおう」という制度・・・これが「平成13年9月30日以前から取得した上場株式等の取得費の特例」(租税特別措置法37条の11の2)です。
これは,平成13年9月30日以前から引き続き所有していた上場株式等(平成13年10月1日で上場している一定のもの)を平成22年12月31日までの間に譲渡した場合,その譲渡による取得費は,その平成13年10月1日の株価(終値)の80%に相当する金額にできるというものです。
これは,平成13年9月30日以前に1株1,000円で取得していても,平成13年10月1日の株価が10,000円だったら80%の8,000円を取得費としてよいというスゴイ制度です。
しかも,この特例の適用により譲渡損失が生じた場合であっても,他の株式等の譲渡に係る譲渡益と通算できるほか,一定の要件を満たせば,「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の特例」(下記参照)も適用することができます。
<特例その3・・・確定申告不要>
通常,上場株式を売買するときは,証券会社などの金融商品取引業者を通じて行なうことが多いのですが,これら業者に「特定口座」を設定し,この特定口座内で上場株式の取引をし,さらに,「源泉徴収」を選択すると,確定申告は不要になります。これが,「確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得」(租税特別措置法37条の11の4)です。
ちなみに,特定口座で源泉徴収を選択すると,特定口座内に保管されている上場株式等の譲渡の都度,譲渡益に相当する金額の7%(平成20年12月31日まで。原則は15%)が源泉徴収されます。
ただし,特定口座でも源泉徴収を選択しなかった場合や,特定口座以外で行なった取引による所得があった場合,譲渡損失と通算する場合などには,確定申告をしなければなりません。
<特例その4・・・譲渡損失を繰越し>
ところで,保有している株式を譲渡した場合,必ずしも所得が発生するわけではありません。損失も発生します。第5回で損益通算の話をいたしました。基本的に,総合課税分も分離課税分も所得と損失を通算(相殺)することができるのですが,おいしい損益通算はできません。例えば株式の売却で発生した損失(赤字)は,他の株式の売却で発生した所得(黒字)と通算することはできますが,異なる所得,例えば給与所得などと通算することはできません。つまり,ある年に株式譲渡所得(売却益)と株式譲渡損失(売却損)があった場合には,譲渡所得と譲渡損失を相殺することはできますが,相殺後に譲渡損失となっても,これを他の所得と通算することはできず,翌年に繰り越すこともできないのが原則です。
ところが,上場株式の譲渡で損失が発生し,その年の株式の譲渡所得から控除しきれなかった(ネットで損失発生)のときは,毎年確定申告を行なうことを条件に,翌年以降3年間にわたって,損失を繰越し,翌年以降の所得から通算することができます。
これが,「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の特例」(租税特別措置法37条の12の2)です。
<特例その5・・・非課税措置>
その他,平成13年11月30日から平成14年12月31日までの間に特定の上場株式を取得し,平成17年1月1日から平成19年12月までに譲渡した場合,この取得対価の額が1,000万円までに達する部分に対応する所得については,一定の要件のもとに所得税が課税されません。これが,「特定上場株式等に係る譲渡所得等の非課税」(租税特別措置法37条の14)です。
いわゆるベンチャー企業の株式はどうなの(いわゆる「エンジェル税制」)?
一般に,ベンチャー企業は資金調達が困難とされます。金融機関の融資もなかなか受けられないことが少なくありません。そこで,融資(借入金)ではなく出資(資本参加)ということになります。
ところが,ベンチャー企業への投資は「当たればデカい(可能性が高い)」ですが,リスクもそれなりに高いものです。「思い切って〜する」がVentureですから・・
思い切ってリスクの高いベンチャー企業に投資する人は,かなりのリスクを負っているといえます。逆に言うと,ベンチャー企業から見れば,そういうリスクを負って投資をしてくれる人は「天使」(エンジェル)ということになります。沖雅也さんというワケです(オチは後枠で)。
このような,沖雅也さん,いやエンジェル投資家に対して,税制上もいくつかの特典を用意しています。
・ ある年のベンチャー企業への投資金額を,その年の株式の譲渡所得から控除できる。
・ ベンチャー企業の株式による譲渡所得の金額を2分の1とすることができる。
・ ベンチャー企業が倒産した場合には譲渡損失とすることができる。
ただし,これらの特典を受けられるのは,すべてのベンチャー企業に対する投資ではありません。「特定中小会社の発行する特定株式」でなければならないのです。
それは,以下の4つです。
1 :「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律第7条」に規定する「特定新規中小会社」が
発行する株式
2: 設立から10年経過していない一定の株式会社で,経済産業大臣の認定を受けた投資事業組合
に対して発行する株式(株主は組合を通じて取得)
3 :設立から10年経過していない一定の株式会社で,いわゆるグリーンシート市場の株式を発行す
る会社が発行する株式
4 :「地域再生法」に規定されている「特定地域再生事業会社」のうち中小企業に該当する会社が
発行する株式
しかも,(会社への)金銭の払込みによって取得した株式が対象ですので,(他人から)相対取引によって取得した場合や相続などで取得した株式は対象になりません。
さらに,金銭の払込みで取得したものでも,いわゆる「税制適格ストック・オプション」の適用を受ける株式については,対象になりません。
あわせてご注意ください。
<投資金額を控除できる>
特定中小会社の特定株式を払込みによって取得したとき,その年の年末に保有する部分に相当する(合計)金額のうち一定の金額を,一定の要件のもとに,株式等に対する譲渡所得の金額から減額することができます。これが,「特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等」(租税特別措置法37条の13)
ただし,翌年以降にその株式を譲渡した場合には,すでに減額した金額は取得費になりません。
<譲渡所得を2分の1に>
特定中小会社の特定株式を,取得後3年を超えて保有してから譲渡したとき,譲渡所得金額を2分の1にするというものです。よって,税金が半分ということになります。これが,「特定中小会社が発行した株式に係る譲渡所得等の課税の特例」(租税特別措置法37条の13)です。
ポイントが2つあります。
まず,その特定中小会社が上場する前に譲渡した場合でも適用があるということです。ただし,特定中小会社それ自体に譲渡(その会社からみれば自己株式取得)したのでは対象外です。また,譲渡の際には買付目的などの一定の事項が記載された書面を交付していなければなりません。
つぎに,上場の後に譲渡する場合には,上場の日の後に3年以内に譲渡して,かつ,証券会社を通じた譲渡でなければ適用を受けられません。
<ベンチャー企業が倒産した場合など>
特定中小会社が倒産した場合・・より厳密に言えば,解散をして清算結了したことや破産宣告を受けて,その会社の発行した特定株式が株式としての価値を失ったことにより損失が生じたときは,そのうち一定の金額は,その株式を譲渡したことにより生じた損失とみなされます。このため,投資先の株式の価値がゼロになったとしても,これを損失として他の株式譲渡所得から控除(つまり損益通算)することができます。
さらに,特定中小会社の株式が価値を失ったり譲渡したりして生じた損失で,その年の株式等の譲渡所得金額から控除しきれない(つまりネットで損失超過)ときは,これを翌年以降3年間繰り越しすることができます。これが,「特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除等」(租税特別措置法37条の13の2第1項)です。
(おわりに)
1979年,日テレで「俺たちは天使だ!」という番組がありました。主演は沖雅也さんでした。今は涅槃におられます。
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