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| 少額債権者等の保護とその方策についての考察 (2006/6/26) |
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はじめに 法的整理の申し立て段階での債務のうち,仕入先等取引先の少額債権者に対する債務を優先弁済して保護することは,事業の継続に不可欠な取引先の離散を防止し,事業価値の毀損を防ぐため,また,取引先の連鎖倒産を防ぐためにも重要である。 以下,民事再生手続および会社更生手続における事業価値保全のための少額債権者等の保護とその方策を考察する。
法的整理の目的 民事再生法1条は「この法律は,・・・・当該債務者の事業の再生を図ることを目的とする。」と規定し,また会社更生法1条も「この法律は,・・・・当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする。」と規定している。 この目的規定からも明らかなように,両法は,株式会社などの債務者そのものの再生を目的としているのではなく,その債務者が営む「事業」の再生・更生を図ることを目的としているのである。 そのため,事業譲渡や会社分割などにより「事業」を他社に移転させることで,当該「事業」の再生が図られるのであれば,例え債務者自身は清算・消滅することになるとしても,それは法の予定するところなのである。 民事再生手続と会社更生手続は,いわゆる「法的整理」に分類されるが,このように,法的整理も,あくまで「事業」の再生を目的としているのである。
事業価値の保全の必要性 法的整理は,法的強制力をもって,弁済を棚上げし,債権額を削減することにより,当該債務者の事業の再生を図る手続である。 言うまでもないが,事業再生においては,「事業価値の保全」が何より重要である。 「事業価値の保全」という観点から法的整理と私的整理を比較すると,一般的には,私的整理のほうが優れていると言われている。 私的整理においては,基本的に,手続の対象者を,メインバンク等の金融機関のみとすることができ,仕入先等の一般商取引先に影響を及ぼさない形で遂行することが可能なためである。 これに対し,法的整理においては,金融機関などが有する債権のみならず,一般の商取引から生じる債権についても,弁済棚上げ及び債権カットの対象とすることが法律上要請されており,仕入先等の一般商取引先に対しても大きな影響を及ぼすことになる。これが,「事業価値の保全」という観点から,法的整理における大きなデメリットとされている。 例えば,ある業者から商品を仕入れていた小売業者が民事再生手続を申し立てた場合,その仕入先への弁済も棚上げされ,最終的に債権がカットされることになる。そうなると,その仕入先は,商品の納品を中止するか,あるいは納品するにしても現金決済を要求するようになるのが通常であり,民事再生を申し立てたとしても,その後の事業の再生は著しく困難になってしまうのである。 以下,民事再生手続を例に,その申立てから,一般の商取引から生じる債権に対する影響についてみてみる(会社更生手続も基本的には同様である。)。
弁済禁止の保全処分 民事再生手続は,裁判所に対して再生手続の申立てを行うことにより始まる(民事再生法21条)。当該申立てが,再生手続開始の要件・条件を充たす場合に,裁判所により再生手続の開始決定がなされる(民事再生法33条)。申立てから開始決定がなされるまでの期間は,東京地裁の場合,約10日間である。 再生手続開始の申立てがなされた場合,再生手続開始決定がなされるまでの間に再生債務者の財産が散逸することを防止するために,裁判所は,民事再生法第30条に基づき,いわゆる「弁済禁止の保全処分」を下すのが一般的である。 この弁済禁止の保全処分により,金融機関の債権のみならず,再生手続を申し立てた時点で既に仕入先等が有している債権についても弁済することが禁止されることになる。 もっとも,全ての債権への弁済が禁止されるわけではなく,一定額以下の少額債権については,弁済禁止から除外されるのが通常である。東京地裁では,弁済禁止の対象外の少額債権を10万円とするのが一般的である。
再生手続開始後は一律に弁済が禁止される このように再生手続開始の申立てがなされた段階で,一定額以下の少額債権以外の債権への弁済が禁止される。 さらに,再生手続開始決定がなされた場合には,仕入先等一般商取引から生じた債権など,再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権は「再生債権」とされるが,この再生債権については,民事再生法に特別の規定がない限り,再生計画の定めるところによらなければ,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることが禁止されるのである(民事再生法85条1項)。 民事再生手続は,最終的に再生計画を策定し,認可を受けて,その計画に定められた弁済案に従って再生債権等への弁済を行うものであるが,これにより,債権カットや支払条件の変更の対象となる債権は,再生債権である。 なお,再生手続の開始決定がなされたとしても,事業は継続され,開始決定後の取引により,再生債務者と取引先等との間で債権債務関係が生じるが,この債権は「共益債権」とされ(民事再生法119条2号),上記再生債権と異なり,再生計画を待つことなく,随時弁済することになる(民事再生法121条)。
問題点 このように,一般商取引から生じた債権については,再生手続を申立てた段階から,弁済禁止の保全処分及び民事再生法85条1項により弁済が禁止され,最終的に策定される再生計画に基づいて弁済がなされる。 つまり,申立てから再生計画の認可まで5ヶ月程度かかるのが一般的であるところ,弁済禁止の保全処分および手続開始決定により,原則としてすべての債権,つまり金融機関の債権のみならず,一般商取引による債権も,この約5ヶ月間棚上げの対象となるのである。 この事実は,債務債務者が「倒産した」との印象を取引先に与えて事業価値の劣化を招くだけでなく,取引先が離散する要因となり,その後の事業の再生・継続に決定的なダメージを及ぼすことになる。 そのため,事業価値の保全のためには,これら仕入先等一般商取引から生じた債権への弁済を実行して,取引先の離散を防ぐことが不可欠になる。 ただし,法的整理手続においては,債権者間の平等が強く要請されており,一部の債権者に対してのみ偏った弁済をすることは,原則として許されない。 その例外は,法が許容するものでなければならない。
弁済禁止の保全処分における例外 前述のように,弁済禁止の保全処分がなされたとしても,一定額以下の少額債権については,弁済禁止から除外され,東京地裁では,弁済禁止の対象外の少額債権を10万円とするのが一般的である。 つまり,10万円以下の債権については,弁済禁止の保全処分の効力が及ばず,再生債務者は随時これを弁済することができるのである。 さらに,申立て時あるいはそれ以前に,裁判所と折衝することにより,この下限額を引き上げることも可能である。この下限額を,例えば50万円とすることにより,弁済できる範囲,つまり再生手続申立後も,取引を継続できる取引先の範囲を拡大することが可能になるのである。
少額債権の弁済許可 前述のように,再生手続開始決定後は,民事再生法85条1項により弁済が禁止される(民事再生法85条1項)。 ただし,裁判所は,再生計画認可の決定が確定する前でも,再生債務者の申立てにより,次の@かAのいずれかの要件を充たす場合には,その弁済をすることを許可することができる(民事再生法85条5項)。会社更生法にも同様の規定が設けられている(会社更生法47条5項)。
なお,このように,手続開始決定後は,少額の債権であっても,裁判所の許可を得ないと弁済をすることはできないが,前記弁済禁止の保全処分との均衡から,弁済禁止の保全処分の対象外とされた金額については,裁判所の許可を得られる場合が多いということができる。
中小企業への弁済許可 以上の少額債権者への弁済制度と似たものに,次に述べる中小企業への弁済の制度がある。 すなわち,「再生債務者を主要な取引先とする中小企業者が,その有する再生債権の弁済を受けなければ,事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるとき」は,裁判所は,再生計画認可の決定が確定する前でも,再生債務者の申立てにより又は職権で,その全部又は一部の弁済をすることを許可することができる(民事再生法85条2項)。会社更生手続においても同様の規定が設けられている(会社更生法47条2項)。 これは,直接的には再生債務者を取引先とする中小企業が,再生債務者の再生手続開始によって連鎖倒産することを防止するための制度であるが,そのような中小企業への弁済を実施することにより,結果的に取引関係を継続でき,再生債務者の事業価値の保全にも資するのである。 この中小企業への弁済の制度は,前記少額債権者への弁済制度と異なり,必ずしも再生債務者からの申立てがなくとも,裁判所が「職権」で行うことができる。 そのため,再生債務者は,再生債権者からこの申立てをすべきことを求められたときは,直ちにその旨を裁判所に報告しなければならず,もし再生債務者が申立てをしないこととしたときは,遅滞なく,その事情を裁判所に報告しなければならない(民事再生法85条4項)。 そして,裁判所は,弁済の許可をする場合には,再生債務者と中小企業者との取引の状況,再生債務者の資産状態,利害関係人の利害その他一切の事情を考慮することになる(民事再生法85条3項)。 |